アイドルが似合わない男の子を好きになってしまった話(チョン・イチャン)

 

 小学校の頃、声が大きくていつもみんなを笑わせてるような人気者の男の子がいた。彼の周りには友達が沢山いたし私もその中の一人だったけど、彼の名前も姿も靄がかかって何も覚えていない。その反面、人気者の彼がよくからかってダル絡みしていた男の子の名前と姿は鮮明に覚えていた。

 彼と私の間に特別なエピソードは何もない。それでも覚えていたのは彼をよく盗み見していたからだ。休み時間は教室の隅にいつも一人でいて、自分の集めたシールを眺めている静かな男の子。人気者の彼が近づくとこの世の終わりのような顔を一瞬だけして、受け答えも言葉にならないまま、ぎくしゃくした身体の動きとうすら笑いを浮かべてどこかへ行ってしまう。集めていたシールの種類は分らないけれど、彼にとっては宝物といえるそれらを収納したファイルを広げた時、彼の瞳孔と鼻の穴は少し大きくなった。ぎゅっとシールを眺める彼はみんなとは違ったふわふわとした空気に包まれて、この狭い教室ではない違う世界に飛んで行った。恋心を抱いていたわけでもない。それでも特別な雰囲気を持つ彼は私にとって不思議な男の子だった。

 

 チョン・イチャンを初めて知ったのはI-LANDという韓国のサバイバル番組で、当初はソヌが好きだったからじっとり見ていたのだけど(その後ヒスンに推し変した)その隣によくいたイチャンは不思議な男の子に雰囲気が似ていた。

 ぽんわりしていたかと思うと、急にぎゅんっとどこかを凝視して、誰かに話しかけられてもすぐ反応できずに聞き返し、合槌を打つ時は首がコクコク何度も揺れ、ぴきぴきと音が鳴りそうな笑顔を浮かべて、心の動きと体の動きがなんだかぎくしゃくしていた。ソヌとは仲良かったけどみんなとなじむのに時間がかかって、177cmある長身は猫背のせいで台無し。好きな音楽ジャンルはモダンロックで、アイドルを目指しているはずなのに他人の目もカメラも気にしていないような男の子だった。

 

 彼の武器は曲が作れること、高音も綺麗に出せる歌声。でも被せが多かったI-LANDでは生かされず歌の上手いヒスンやゴヌの裏にも隠れ、曲作りも加点にはならなかった。I-LANDに来る前に練習期間が6ヶ月だったこともあってパフォ中の表情管理がうまく出来ず、そこそこ踊れるダンスを下方修正して見せた。そうでなくてもI-LANDにはダンスモンスターが沢山いたし、分量も多い方ではなかったのでシーズン1であっけなく脱落。アイドルよりも裏方かシンガーソングライターの方が向いてそうと思っていたらI-LAND終了後に会社所属のPDになって自身もソロ曲を出した。

 

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 マイペースな彼だからこういった活動が向いていると思ったのに、2年後に何を血迷ったか彼はまたBOYS PLANETというサバ番に参加した。あまりにも理解できなくて「事務所がCJ系列だから無理やり出させた」「サバ番参加報酬で仕事がもらえる」とか心の中で勝手に陰謀論を展開してしまった。

 久しぶりに見た彼は1ミリも変わっていなかった。ボイプラ人気上位のキム・ジウンと同じチームで、よく喋るユン・ジョンウが隣にいたから映ることが多かったけど、相変わらずどこかぽんわりしていてぎくしゃくしてた。目立つチームに入れたからパフォもカットされずラッキーだったけど、ジウンとジョンウの寸止めキッスで話題は全部持っていかれた。

 グループバトルでは親切にしていたダウルに指名されて余り者チームになることはなかったけど、パートを再度決めなおした時に目立つメインボーカルに代わったのに、本番で高音が出ず盛大に失敗した。その時のソクフンマスターの指摘がこれだ。

(相手チームの)ヤンチュインとイチャンが高音を歌ったけど、ヤンチュインのミスは目立たなかった。イチャンは頭を下げてしまってミスが目立った。ファンのみなさんも気づいたと思います。

 

 イチャンは1ミリも変わっていなかった。素人でもミスをしたと分る身体や表情の動きをしてしまったのだ。ミスはミスしたまま表に出て曲の最後まで動揺し続けイチャン自身の顔がDangerだった。イチャンは1ミリも変わってない。だから昔と同じく表情管理ができなかった。1回目の順位発表で最終順位で生き残った時も同じ。名前を呼ばれた瞬間に喜ぶか頭を下げるかすればいいのに、彼はなぜか前歯を出した。

 

 イチャンはアイドルとしてポンコツだ。顔が良くてスキルが高くて完璧な人格者。そういったタイプの人ではない。彼が誰に優しくしても周囲に伝わるだけで画面越しにはうっすらとしか届いてこない。見せ方がヘタクソで足りないところが多すぎて、度々OMGさせるアイドルだ。だけどシールの彼と同じように長く記憶に残り、表に出てくればどうしても見てしまう。感情がストレートに出たり、逆に読めなくなったり、何を考えてるのかさっぱり分からないけれど、どこか歪な感じに引き寄せられる。

 

『イチャンに投票した人はバカ』

Twitterにこんなことを書いていた人がいた。ストレートな悪口すぎてちょっと笑ってしまったのだけど、確かにその通りかもしれない。(他のイチャンペンは違うけど)イチャンより可能性を秘めている練習生もいたかも知れないけど何の迷いもなく投票した。でもアイドルが似合わないそんな子が、サバイバル番組で泣いたり笑ったり前歯出してるところが見たかった。心と体がちぐはぐな彼が正しかったり正しくなかったりする答えを知りたかった。期待は応えても応えなくてもいい。彼の行動と結果に深い関心があった。欠けた部分があったり過剰な部分があったり、でこぼこな形が私にとっては「完璧」だったから。

 

 来週はポジション評価。予告だとダウルとパク・ドハと同じチームらしい。ここでイチャンが挽回すれば綺麗なイチャンストーリーが描けるけど、失敗してしまう確率も0ではない。でも結果がどうあれきっと「頑張ったね」って100回ぐらい言って許容してしまうと思う。なぜなら私も完璧じゃなくて歪なバカなんだ。共感を多く得られなくても私にとって彼は特別で、特別ならばその存在はアイドルだ。君はアイドル。画面越しにぎごちない笑顔を浮かべて現れる少し変わった不思議な不思議なアイドルだ。

 

 

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